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新潟の日本酒

酒蔵へGO!

 

2 宮尾酒造 - 米へのこだわりに触れる -

所在地:村上市上片町5-15 TEL.0254-52-5181/アクセス:JR村上駅から車で10分

越の寒中梅いまから二十年ほど前、西荻窪の居酒屋で出会って以来、そのとき感じた「上品」という印象がいまなお残る「〆張鶴」。今回はその蔵元である村上市の宮尾酒造にお邪魔しました。

伺ったのは11月初旬。今季(平成21BY)の造り開始は9月中旬でした。驟宦iもと・酒母)の仕込みが始まり、いい香りが漂ってきた10月7日には、村上大祭で知られる羽黒神社の神主さんを招き、今季も安全によい酒が醸せるよう祈祷が行われたそうです。

蔵を見学する前に、専務の宮尾佳明さんに蔵の歴史や目指しているお酒についてお聞きしました。文政2(1819)年創業で、佳明さんの父である現在の宮尾行男社長で10代目という歴史をもつ宮尾酒造。酒造業のほかに、一時は北前船の廻船問屋もしていたそうです。現在宮尾酒造で造っているお酒は季節限定も含めて10種類ですが、創業から一貫して大切にしていることは「地元でふだん呑んでもらえるお酒」。そのために原材料にこだわります。原料米は地元産の五百万石が中心。最も低価格な普通酒「花」でも、酒米は60%まで磨き上げています。法律上の表示基準でいえば60%は本醸造酒や吟醸酒などの特定名称酒クラス。普通酒であっても上品できれいな味わいである理由がここにありました。蔵の脇を流れる門前川対岸には自社の精米工場があり、目的の酒質に合わせてていねいに精米されています。仕込み水は敷地内に湧く朝日連峰の伏流水。代々この水でお酒を醸してきました。

 

左:門前川岸から望む仕込み蔵。蒸米の蒸気が造りの到来を告げる
右:店頭の、屋号が表記された看板からも歴史が香る

 

宮尾専務に案内されて仕込み蔵へ。店先から続く仕込み蔵は昭和39年の新潟地震後に木造から改築され、昭和61年に3階建てに増築されたそうです。酒母室のタンク内では高い泡が立ち、酵母が増殖している真っ最中。フルーティーな香りがたまりません。仕込みタンクでは、掛け米を加えたあとの櫂入れ作業が行われていました。宮尾酒造で酒造りにかかわるのは約20名。製造に直接かかわる人たちは新潟清酒学校で学んだり、酒造技能士1級、2級の資格を取得。そして、その蔵人たちを束ねるのが杜氏さんです。すでに今日の作業を終えた藤井正継杜氏にお話を伺いました。

藤井杜氏は昭和13年生まれ。生まれ育った長岡市寺泊の野積(のづみ)は越後杜氏の四大出身地の一つです。背後には弥彦山、目の前には日本海を臨む漁師町で育ち、中学を卒業して酒造りの道へ。「強い信念をもって、この道に入りました。今は清酒学校などの教育機関がありますが、当時は先輩たちの背中を見て学びましたね。昔は搾りから蒸かし、驟宦iもと・酒母)の仕込み、麹造りと、下積みからひとつひとつの作業を覚えていきました。戦争を経験している先輩たちの愛の鞭をもらいながら」。白瀧酒造(湯沢町)で13年、その後岐阜の酒蔵で13年勤めたのち、昭和54年に宮尾酒造に入社。今までで最高にうれしかったことは「昭和57年の関東信越国税局酒類鑑評会で首席(総代)をとったときですね」と微笑みます。こういう喜びを得るためには「健康第一。規則正しい食生活が大事です。そしてお世話になっている会社に対して感謝の気持ちを忘れないこと」。藤井さんは平成19年度には「にいがたの名工」にも認定されました。

 

藤井杜氏が目指すのも、専務同様「消費者に喜ばれるお酒」。それぞれの種類のお酒がどのように呑まれるのかによって、最適な酒質を追い求めます。そのために「まずは米の出来が大事。そこからいい麹を作って初めてスタートラインに立てます」と藤井杜氏は原料米の大切さを説きます。「年によって米のとけ具合も違い、溶けやすい米ほどすっきりとした味わいを導くには技術が必要になってきます」。その年の米を見極め、求める酒質のための設計図を描き、それを実現していく。高品質な原料米と高い技術の両面があって初めて、呑み手が求める変わらぬ味わいを届けることができるのです。

現在宮尾酒造で製造している唯一の純米酒である純米吟醸「純」は、県外のファンも多く、蔵の顔となっています。県内でも早い時期から純米酒を手がけ、米の磨き方にこだわり純米吟醸として酒質を向上させてきた宮尾酒造。「ふつう純米酒というと味が濃いイメージがありますが、うちのお酒は口に含んだときはしっかりと米の旨みを感じながら、あと口はすっきりしているところが特長です」と藤井杜氏。米にこだわり続ける蔵のプライドこそが、上品な味わいの秘密なのかもしれません。

蔵の顔である〆張鶴純米吟醸「純」(左)と〆張鶴(普通酒)「花」。宮尾酒造では蔵見学は不可。お酒の販売は可

酒母室のタンク内では、優良酵母が増殖中

仕込みの掛け米が投入されると、櫂を入れて均等に混ぜる。力のいる作業だ

門前川の対岸にある自社精米工場は平成に入ってから建てられ

専務の宮尾佳明さんは今年(平成21年)清酒専門評価者の資格を取得

右:伝統の野積杜氏の技を伝承する藤井正継杜氏は今年、宮尾酒造で30年目を迎える