cushuは“新潟のおいしい”の合言葉です。

新潟の日本酒

酒蔵へGO!

 

3 新潟銘醸 - 伝統をつなぎ、育む -

小千谷市東栄1-8-39 TEL0258-83-2025/アクセス:JR小千谷駅から徒歩5分

越の寒中梅JR小千谷駅から駅前商店街を進み、小路に入ってしばらくすると目指す新潟銘醸に到着。事務所ビルと製品倉庫、その奥には設備が整った蔵が立ち並ぶ近代的な造りが印象的です。しかしながら5年前の中越地震では、最も古い蔵が倒壊するなど甚大な被害を受け、社員一丸となってそれを乗り越えて今日に至っています。

蔵を案内してくれたのは、新潟銘醸の開発室長を務める山下進さん。新潟清酒学校の校長でもある「山下先生」には新潟清酒について常々指導をいただいていますが、肝心の蔵に伺うのは今回が初めて。杜氏さんと二人三脚で新潟銘醸の味を守り、高めている山下先生の案内で、蔵へ。

新潟銘醸の平成21BY(平成21酒造年度)は9月中旬から始まりました。伺った12月上旬には、すでに吟醸酒の搾りも一度終え、31本ある仕込みタンクの25本に仕込み中のもろみが入っています。12月は貯蔵・熟成中の平成20BYのお酒の出荷と、平成21BYの仕込みが重なる繁忙期。造りは年明けの3月20日頃まで。気温が一気に上がって桜が咲く前には搾りを終え、火入れをして貯蔵します。この日は3tの白米を蒸して仕込む通常の作業が行なわれていました。

 

左:麹室に運ばれた蒸し米の一粒ずつに、均等に菌がつくよう手を入れる
「まずは確実に伝統をつないでいくこと。それから自分たちのカラーを出していくことが大切」と、山下先生

 

最初の工程となる蒸し米の現場へ。吟醸酒や出品酒は甑(こしき)と呼ばれるせいろを使いますが、それ以外の蒸かしは機械で行われます。洗米、浸漬を終えた米がコンベアにのり、蒸かされ、冷却されます。次に種麹菌の散粉機で麹菌を植えつけます。手で麹菌を振る姿を連想していた私に、「道具ならよくて機械が悪いなんてことはありません。どちらが良い悪いではなく、どう使いこなせるか。大事なのはソフトです。そのソフトの集まりが酒造り。だから、取り入れられる部分は機械を導入して省力化し、それを使いこなすことで酒質を保ちつつ、適正な価格の商品を呑み手に提供していきたいと思っています」と山下先生。当然のことながら、お酒の種類によって手作業での麹造りも行います。

次は酒母室へ。酵母を大量に増殖する「酒母」を仕込む部屋です。酵母の種類によって華やかな香り、落ち着いた香りなど特徴があり、製品のタイプによって酵母を使い分けて酒母を仕込みます。ポコポコと泡を立てて、優良酵母が増殖中。フルーティーな香りが部屋中に漂っています。

 

仕込みが行われる仕込み蔵では、杜氏がもろみの管理をしていました。地元小千谷出身の細川忠清杜氏は蔵に入って30年目。「新潟の名工」の横山敏杜氏の教えを受け、15人の蔵人を束ねる杜氏職について三季目を迎えます。細川杜氏が目指すお酒は「味のあるお酒です。きれいなお酒がブームになった時でも、うちは味のある酒にこだわってきた。それも嫌な感じのしない旨みのある酒。よく『銘醸さんのお酒は燗をつけると味があるねえ』といわれます。うれしいですね。米をよく磨き、よく溶かして、雑味のない米の味をそっくり出すことで生まれる味。これは原料処理をしっかりやることで、いい麹ができ、いい発酵をしてくれます」。

米に対する思いは、山下先生も同じ。「酒造りは米を中心に考えるべき。原材料にまさるものはないのです。そのよさをいかに出していくのかが技。うちでは麹米は55%まで磨いた県産の五百万石をベースにしています。掛米も、普通酒でも60%まで磨き吟醸レベルのものを作っています。65%と60%。たった5%の違いで酒質の高級感が違ってくるからです」。米と同様に大切な原料水は、ほとんど鉄分を含まない魚沼水系のものを使用。その成分は、小千谷の名水として名高い「ばば清水」とほぼ同じです。

最後に、搾り後の酒粕をはがす作業を見学。新潟銘醸では種類によって3つの方法で搾ります。一つはヤブタと呼ばれるアコーディオン式の自動圧搾機。2つ目は袋に入れて「ふね」に並べてたらす方法。そして3つ目が秋田県総合食品研究所の田口隆信先生が開発した遠心分離方式による圧をかけずに搾る方法。適所に機械を導入し、昔は全体作業の17%を費やしていたといわれる搾り作業を、現在では2人で担当。世の中の変化に合わせるものと、伝統文化として頑なに守るべきもの。この二つをどう両立させていくのか。それぞれの蔵の進む道がここにあることを実感した1日でした。

山下先生と細川杜氏が共に口にした新潟銘醸のお酒の特徴は「ふくらみがある」こと。このお酒を、名物小千谷そばと楽しめる「長者盛と小千谷そばを楽しむ夕べ」が毎年年末か年明けに開催されています。小千谷名物の最強コラボに、酔いしれてみたいですね。

左:ヤブタで搾った酒粕をはがす作業
真ん中:敷地内にある瓶詰め工場では、取材当日はカップ酒の作業が行なわれていた

新潟銘醸では「長者盛」「越の寒中梅」の定番酒を中心に、季節限定酒などを含め約50種類を製造している。蔵見学・蔵での販売は不可

31本のタンクがある仕込み蔵。仕込みに使う麹を広げ、乾燥しておく

クリーミーな泡と、バナナのような香りを立てて発酵中の酒母

もろみの温度をチェックする細川杜氏

「安全第一。そして蔵人のチームワークを大切に、作業をしています」と細川杜氏